歴史的出来事や教育、産業、社会的問題などをトピックにしたドキュメンタリー(Documentary)はエンターテイメントとして見る映画とは違って、リアリティーを追求する映像作品です。
長編やテレビに放映する短編まで、配信するプラットフォームやジャンルが数多くありますが、ドキュメンタリーを制作する際は果たして、映画製作のように同じプロセスになるのでしょうか?また、映画と同じように脚本を作るべきなのかどうかを今回紹介したいと思います。
映像制作におけるドキュメンタリーを直訳すると記録映画または記録映像です。どういう意味かというと、本来ストーリーや演技などに重点を置いた映画と違い、「今起きているもの、もしくは起きた出来事をありのままに撮影し一つにまとめる」ものを指します。
映画制作では通常、キャスティングやロケーションの選定を行い、プロダクションでは監督による演出(ディレクション)をする事になるのですが、ドキュメンタリーの場合は演出はあまり行われず、その時に起きたハプニングや会話、インタビューを記録することになります。
そのため、ドキュメンタリーを撮影している時は次に何が起きるかわからないので、監督や撮影監督はどんな状況になっても映像を記録できるように柔軟な対応が行えるようにならなくてはなりません。
ドキュメンタリーは一つのジャンルですが、ドキュメンタリーの中でも数多くのジャンルが存在します。
動物を追ったものであればネイチャードキュメンタリー、歴史であればヒストリードキュメンタリー、テラスハウスなどの人と人の関係を見せるものはリアリティーフィルムなどジャンル分けすることが出来ます。
映画とは制作の方法が違えど予算やスケジュールが絡んでくるので、ドキュメンタリーの制作でもプリプロダクション、プロダクション、そしてポスト・プロダクションのプロセスを通していく必要があるのですが、撮影当日何が起きるか分からない、ノンフィクションのドキュメンタリーには撮影前に脚本を用意するべきなのでしょうか?
ドキュメンタリーの制作方法
実際のところ、ドキュメンタリーに脚本が必要かどうかは作品を作る監督次第になる事が多いと思います。
その理由は、時事ネタであれば制作中に大きく状況が変わる事があったり、撮ってから後で考えるという方法もできるからです。主にドキュメンタリーを制作する方法は3つあります。現在の状況や持っている情報などを確認しながら自分に合った制作方法で作っていくと良いかもしれません。
- テーマや作品にしたいトピックを一つ決めて、とりあえず撮影する
- 情報収集をしながら、全体的なドキュメンタリーの方向性を考えて計画を立てる
- 脚本を書いて、それに沿ってドキュメンタリーを撮影する
これら3つはどれもメリット、デメリットがあるのですが、ドキュメンタリーを制作する前に検討しておきたいポイントになります。次の項目でそれぞれ詳しく紹介していきたいと思います。
1. テーマや作品にしたいトピックを一つ決めて、とりあえず撮影する
自分のドキュメンタリーが最終的にどうなるか分からないけれど、とにかく一つを作ってみたい!という方はひとまず「何を撮りたいか」のテーマやトピックを一つ決めておきましょう。
そのテーマやトピックを紙などに書いておくのも良いですが、全体的なイメージはまだ付いていないと思うので、とりあえず撮影をすればなんとかなると思います。現在進行中の時事ネタやリアリティーショーにフォーカスを入れたい場合は、この撮影方法が主流です。
記録映像として必要な素材が揃った後は、映像を確認しながら編集の段階で一つの作品にまとめていくことになります。映像をある程度まとめた後で、追加の素材を撮影したり、インタビューシーンをセットアップしたりすることも可能です。
今撮って、後で決めたいという方にはオススメですが、場合によっては映像素材が膨大な量になり、確認作業が必要になってくるので、ポスト・プロダクションにかなりの時間を費やすことになるかもしれません。
また撮影のプランを作らずに撮影すると、まとまりのない映像になったり、あまりシネマティックな感じに出来ない可能性もあります。
2. 情報収集をしながら、全体的なドキュメンタリーの方向性を考えて計画を立てる
脚本までとは言わないけれど、ある程度計画を立ててから撮影をしたい!という方はプリプロダクションの段階で、テーマとトピックを選択してその情報を収集していく所から始めます。この方法は様々なジャンルのドキュメンタリーで使える方法です。
ドキュメンタリーはノンフィクションであるため、過去に起きた出来事などを紹介する場合は正確な情報を伝える事になるので、情報収集は必要不可欠になってきます。ドキュメンタリーの多くは一つのテーマまたはトピックを紹介する中で白と黒、陰と陽、善と悪のような2つの関係性を紹介することもあるので、情報を探しているうちに面白いトピックが生まれてくることもあります。
それらのトピックを全てリストアップしていって、ドキュメンタリーの全体的な方向性を決めていくアウトライン(Outline)またはコンセプトを作っていくことで映像の色のトーン、カメラのショットや動きなど技術的な部分でも具体的に考えることが出来ると思います。
脚本を書く難しい作業は必要ないし、ある程度コンセプト化出来ていればスポンサーや撮影クルーに作品のビジョンを伝えることが出来るのでオススメなのですが、あまり複雑な内容になってくるとアウトラインを読んでも他の人が分からない事になるので、いかにシンプルかつ分かりやすく伝えられるかが重要になってきます。
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3. 脚本を書いて、それに沿ってドキュメンタリーを撮影する
しっかりとしたプランを練ってドキュメンタリーを作りたい場合は脚本を用意する所から初めることが出来ます。
ドキュメンタリーの脚本は映画とは違い、一般的に2カラムのフォーマットで作られることが多いです。左側に「映像」そして右側に「音声」の項目があり、映像にショットやシーンの詳細、音声にはボイスオーバー(ナレーション)やインタビューの質問等を入れていきます。このフォーマットはコマーシャルなどで使われるものとほぼ同じ物になっています。
作品の最初から最後まで書かれているので、制作するドキュメンタリーの全てが分かるだけではなく、ショットや質問内容など必要な情報を脚本に含める事ができるので、便利なものになると思います。歴史的なドキュメンタリーや再現映像を多く使ったものであればこの制作方法がピッタリです。
ドキュメンタリーのジャンルによっては使い勝手いい方法ですが、脚本を用意してもいても最終的に違うものになったり、リアリティー物だと何が起きるか予想ができないと思うので、制作するジャンルによって脚本を作るか作らないかを検討しておくと良いでしょう。
ドキュメンタリーもストーリーが重要!
ドキュメンタリーをより面白くするためにはストーリーが重要になってきます。
ノンフィクションなのに、ストーリーが必要なの?と思ってしまいがちですが、ノンフィクションは多くの人が絡んでくると思うので、リアルなヒューマンドラマを描くことが出来ます。NHKで有名だったプロジェクトXを例にしてみると、フォーカスを入れている人物の「発端、苦悩、成功」の3つが描かれていますよね。
これはストーリーを作る際に役に立つ三幕構成の「設定、対立、解決」と全く同じで、ドキュメンタリーを作る上でも観客が引き込まれるように映画で良く使われる三幕構成をそのまま取り入れている事が多いのです。ストーリーが出来ていないものだと、ただの記録映像になってつまらないので三幕構成を意識して計画を立てていくと良いでしょう。
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- ストーリーの場面転換であるプロットポイント(Plot Point)やミッドポイント(Midpoint)を理解して、物語を引き立たせよう!
比較的低予算で大まかな計画を立てるだけで作れるドキュメンタリーはこれから映像制作をしてみたい!という方にもオススメです。Netflixでは2018年にアカデミー賞を受賞したドキュメンタリーがある位、オススメのドキュメンタリーが多く用意されているので、色々な作品を参考にしてみると良いでしょう!
(MIKIO)
Photos:Sam McGhee,Randy Colas,Priscilla Du Preez,Oziel Gómez,Thought Catalog,Jordan McDonald,Scott Walsh