ドキュメンタリー映画(Documentary film)は映像作品のカテゴリーの一つで、長編映画からテレビ番組、そしてYouTubeなどで作品を見たことがあると思います。
一般的に演出などが必要な映画やテレビドラマと違って、リアリティーのある作品であることから、また違った楽しみがあります。
ドキュメンタリーは歴史や政治系、1人または複数にフォーカスを当てたヒューマンドラマ、そして動物の自然系など、映画のように多くのジャンルが存在しており、追求するテーマも作品によって変わってきます。
ある出来事を振り返る作品もあれば、これまで知られていなかったトピックへの関心を高めるものであったり。
また物語の伝え方も再現映像やインタビューを行うものなど、色々なテクニックがありますが、実はドキュメンタリーは6つの種類に分けることができます。
これからドキュメンタリーを制作したいという方はどのように撮影するべきか迷ってしまいますが、作品のトピックを見つけた後でこちらの記事で紹介する方法を使ってみると、最終的なイメージがつくかもしれません。
6種類のドキュメンタリー
先ほど書いたように、ドキュメンタリーは様々なカテゴリーや物語を伝える方法があります。しかし、作品を細かく見ていくと6つある種類のいずれか、または組み合わせたものになっている事が多いです。
この6種類は映画評論家のビル・ニコルズ(Bill Nichols)氏が「Documentary Mode(ドキュメンタリー・モード)」として唱えたもので、解説型(Expository)、観察型(Observational)、参加型(Participatory)、遂行型(Performative)、反映型(Reflextive)、詩的(Poetic)があります。
一つのトピックでも使用する種類が違えば作品の印象がガラリと変わるので、ドキュメンタリーを作る前にどの種類を使うのがベストなのか検討してみると良いでしょう。
解説型(Expository)
一般的なドキュメンタリーとして知られているのが、この解説型です。
物語はナレーション主導になっており、紹介しているテーマの詳細をわかりやすく解説するドキュメンタリーです。作品中に再現映像やモーショングラフィックスなどを付け足す事も多く、一番見やすくなっているのが特徴的です。
この方法を使用したドキュメンタリーはNHKの「プロジェクトX」などが良い例です。
観察型(Observational)
その名の通り、観察がメインのドキュメンタリー。動物や昆虫などにフォーカスを当てたものや、テラスハウスなどのリアリティーショーに使われることが多い、メジャーなドキュメンタリーの種類の一つです。
基本的に演出は行われず、被写体は撮影されていると感じさせないようにする必要があるため、ありのままの姿が見れます。
ナショナルジオグラフィックやアニマルプラネットで見かけるドキュメンタリーが良い例です。ちなみにナレーションが入っているので、解説型にも入ります。
反映型(Reflexive)
反映型は製作者がドキュメンタリーの主役になっているものになります。ビデオ日記などに多く見かけられるもので、撮影しているカメラをあえて入れたりと、メイキング映像のような作品になっているのが特徴です。
後に紹介する遂行型と似ていますが、大きな違いとすれば反映型はカメラを回す製作者本人が「テーマの主役」にであることに対して、遂行型は「テーマを解説、問題などを問う進行役」のイメージになります。
遂行型(Performative)
通常のドキュメンタリーは客観的に作られるものが多いのですが、遂行型に関しては製作者がテーマやイベントそのものに参加して「主観的」に撮影するものです。
主に製作者の視点で作られることがほとんどで、手持ち(ハンドヘルド)で撮影されてあったり、インタビューをする際は質問者の声が入っていたりと、よりリアルな状況を表現できるメリットがあります。
反映型のように製作者が主役・進行役になる事もあり、2004年の「スーパーサイズ・ミー」やマイケル・ムーアの作品はこの遂行型に当てはまります。
参加型(Participatory)
遂行型、反映型は起きているイベントやテーマの中に「主観的」して作られているのに対し、参加型はテーマやイベントに関わった人たちのインタビューなどの意見を取り入れながら作る「客観的」なドキュメンタリーです。
こちらの種類もドキュメンタリーの多くに見られるもので、インタビューを多く使うドキュメンタリーの場合、製作者(インタビューアー)の声は入れず、インタビューの内容を上手くつなぎ合わせて一つのストーリーに仕上げる場合が多いです。
インタビューメインのドキュメンタリーもあれば、ナレーションを組み合わせて作られることもあります。Netflixにある「FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー」はこの参加型に当てはまります。
詩的(Poetic)
解説型のドキュメンタリーと違って、主役となる出来事や人にフォーカスを当てず、あえてその周りの環境や雰囲気を表現するもの。真実を伝えるより、その場の雰囲気を見せているため、ドキュメンタリーよりも芸術に近いものになっています。
また、ランダムなクリップにモノローグのようなナレーションを付ける演出でも詩的の種類に入ると言われます。
この方法を使用したドキュメンタリーはSamsara(2011)が良い例になります。
それぞれの違い
上記の説明を見てもわかりにくいと思うので、「セブ島で活躍する写真家、秋川太郎」をテーマをドキュメンタリーにした場合、それぞれどのような違いがあるのでしょうか?
登場人物としてドキュメンタリーを作る「製作者」、解説者の「ナレーター」、写真家で主役である「秋川」、秋川のカメラアシスタントである「アシスタント」、そしてセブ島にいる「現地の人」が作品の中にいると考えてみましょう。
解説型の場合:
ナレーター:「フィリピン、セブ島はリゾートや語学留学として人気があるなか、10年前からフィリピンの人々の様子を撮影し続ける、写真家の秋川太郎さんがいます。
彼は子供の頃から写真撮影に興味を持ち、フィリピンに旅行した際に人々の優しさに惚れ、それ以来虜になってしまいました・・」
秋川の普段の様子、写真や再現映像などを映像を交えながらナレーションメインで進めるドキュメンタリー。間にインタビューが入ることもあります。
観察型の場合:
秋川太郎の普段の生活や他の人達と話している様子を中心に撮影されていく。インタビューや再現映像は基本的にない。
反映型の場合:
自分撮りをしながら
秋川「今日は2019年6月8日、橋の下で撮影する予定です」
秋川「(続けて) セブ島の子どもたちって、元気があるのと、コンテスト用に出展したいと思っててね」
秋川自身が主役・製作者となり、ドキュメンタリーを製作するもの。
遂行型の場合:
アシスタント「秋川さん、今日はどこで撮影しますか?」
秋川「子どもたちの集まる橋の下とかどうだろう?」
アシスタント「ストロボとかもって行ったほうが良いですね」
主に秋川のアシスタント目線でドキュメンタリーが繰り広げられるもの。
参加型の場合:
インタビュー映像にて
秋川「私は、10年前にセブ島に来たときから虜になりました」
アシスタント「彼はとても情熱的なカメラマンで、絶対シャッターチャンスは逃しませんね」
現地の人「秋川に最初会った時は、元気な青年だったよ・・」
主にインタビューをメインに進めるが、質問者の声などは入っておらず、これらの素材を元に一つのドキュメンタリーを作り上げるもの。
詩的の場合:
セブ島の街並みや人々、秋川が使用するカメラのを中心に撮影し、音楽に合わせてカットしていく。
ドキュメンタリーの種類は組み合わせることも多い
6種類あるドキュメンタリー・モードですが、これら一つの種類で制作されることもあれば、解説型+参加型のように複数の種類を合わせて制作されるドキュメンタリーも多いです。
例えば「次郎は鮨の夢を見る」参考にしてみると、音楽に合わせて美味しいショットを組み合わせた部分が「詩的」、そして質問者の声が入っていないインタビューを使って物語が進むので「参加型」になっています。
このように作品やシーンに合わせて、使用する種類を変えていくとより面白く出来上がるのでオススメです。
今回紹介した6種類のドキュメンタリーについてはウェブサイトによって若干曖昧な部分があったりしますが、ニュアンス的には紹介した通りになります。
またこちらに関してはルールではなくあくまで演出の種類と考えてくれれば良いので、ドキュメンタリーの主役をどうするかや誰が解説してくれるのかなど、迷った時に今回の6種類のドキュメンタリーを覚えておくと良いかもしれません。
(MIKIO)
Photos: KAL VISUALS , JD Mason, jason thomas, Laura Lee Moreau , Milada Vigerova, Ray Hennessy, Austin Distel, Seth Doyle, Sam McGhee, Wahid Khene